アイドル。

その言葉が『偶像』を意味する事は広く知られているが、元々の語源はそれでは無く、ナントカというギリシア語らしい。

俺は、手帳に読めない文字で書かれたそれを眺めながら、諦めを込めて溜息一つ。

その言葉が指し示す意味は、『見る』

それが表す通り、彼女は、見られる為に産まれたような存在だった。

目を閉じ、初めて彼女に『出会った』日を回想する。

ブラウン管の中で歌う彼女。

廃れつつある旧式テレビであっても損なわれない美しさ。

――大崎くるみ。

その頃はまだメディアに露出し始めたばかりで、『新人アイドル』などという売り文句もついていた彼女だったが

ステージの上では、他のアイドルの誰よりも、光輝いて見えた。

ブラウン管の中で歌う彼女は、綺麗という言葉でも、可憐という言葉でも物足りない。

一種の芸術のようにさえ思えた振る舞いは、俺の瞳を奪っては、一瞬たりとも離さなかった。

天使のようだと称する事に、誰も文句を言わないであろう歌声は、彼女が歌い終わったその後もずっと、俺の耳に残り続けた。

……その日から、俺は気付けば彼女のことを考えるようになっていた。

俺は、彼女に心を鷲づかみにされていたのだ。

一目惚れだ。

今思い返しても、あの時、俺は間違いなく彼女に惚れた、はずなんだ。

憧れ、愛情、保護欲。

一瞬で俺の心を埋め尽くした彼女への思い。

別に恋人になりたいとか、彼女を自分の物にしたいとか、そんな事は微塵も思わなかった。

少しでも彼女の傍に居れたらと、そう思って……。




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